星を繋ぐ猫達 《第8章 神城鬼伝説解体》

暑い日が続きますね。地震や水の被害も相次いでいます。皆様もお気をつけ下さい。

では、続きをお楽しみください。

画像は、個展作品「魔猫島」より、子猫探偵団


《第8章⑱ 神城鬼伝説解体》

翌日…

神城村の神社の蔵では、千寿氏の案内で、調査隊が到着していました。

立入禁止の紐を潜り抜けると、一瞬にして空気が変わりました。

調査仲間が、変化に驚くと…

「安心してくれ。警戒されている訳じゃない。歓迎されてるんだ」

千寿氏は、壊れた鍵の回りにグルグルに巻かれたロープを、丁寧にほどきます。

「彼らは、皆に[恐ろしい鬼]ではない事を証明してくれる事を望んでいる。そして故郷に還れる日を待っている」

「い、いいのか?宇宙人て事をバラしちまって?」

調査メンバーの内海氏は、少々不安げな表情です。

「いいさ、今更、妖怪も、宇宙人も対して変わらないよ。鬼として地中に縛り付けられる意味を解き放ちたいんだ…この蔵にある書物や道具を公表する」

「そんな事して、大丈夫なのか…?変な輩がきて荒らしにくるぞ?」

「大丈夫さ、村人以外の人間が来ても、ただの村起こしにしか見えないよ。今まで[鬼伝説の里]として、観光スポットとして機能していたのが、[UFO伝説の里]になるだけだよ。役場が、準備してくれている」

千寿氏は、先祖達が受けた、長い苦しみを解放したい、その一心なのです。

「分かった、千寿、おまえ…一体、何者なんだ?学生時代から変わったヤツだと思ってたけど…?」

「君達と変わらない、ただのUFOマニアだよ」

細身で長身のひょうひょうとした風貌の千寿氏、ちょっと手足が長くて、天然パーマ、眼鏡越しに見える、優しい眼差しは、不思議な雰囲気を醸し出していましたが、地球人として、なんら変わりません。

調査隊達は、ライトに照らされた蔵の中を、丹念に調べ始めました。

境内の物陰に、人影が…

松方さんです。

まさか、今の話を聞かれていたのでは?

心配はいりません。
さっき、空間が変化した時に、猫沢さんが、設置した機械が作動し、特殊な周波数を発している為、彼らの話は聞こえません。 

「あいつら…蔵に入っていきやがった…今に襲われて喰われて死んでしまうぞ…」

なんと、心配していたのです。 

「松方さん…申しにくいのですが、私には邪気は感じません…」

隣にいた、がたいの良い行者姿の男性と弟子であろう男達が三人、蔵を見つめていました。

「西園寺先生、何も、感じないんですか?」

「確かに、あの蔵には、何かの気配を感じるが…あなたが思うほど邪悪ではない…再び封じる必要があるのか疑問です…」

「え!え!ど、どう言う事ですか?大昔、あなたの師匠達が、強力に封じ込めたと言うのに…!?」

松方さんは、驚くばかり、

「確かに、先代の師匠達がここに来た頃は、怨念や執念や魑魅魍魎のような邪気が溢れ…封じるのが大変だった、私も若い頃、手伝ったから覚えている…。だが、大半は、あの時に、徐霊し浄化されている、今は、精霊のような繊細な魂が漂っているだけだ…松方さん、安心なさい、彼等は、すっかり成仏している。昔かけた、呪詛を解きましょう」

拝み屋の先生は、当時の記録帖を頼りに、お札を丁寧に剥がし、解除の呪文を呟きながら、左回りに神社の周りを、数回歩きました。

「これでよし、これからは、御輿が練り歩く時は、右ではなく、左回りで廻ってください。もう、村が、襲われる事はない。では、帰らせていただきます。今回の鑑定料はいりません。私達は、名物の蕎麦を食べに観光で来た。そう言う事でチャラにしましょう」

行者姿の男性は、弟子達を連れ、車に乗り込み行っていってしまいました。

一人残された、松方さんは、まるで狐にでも、つままれたような表情で立ち尽くしていました。

「一体…どうなってるんだ…?」

彼は、しばらく呆然とした後、ハッとし、急いで、どこかに、向かいました。

蔵の中では、古い書物を丁寧に広げては、驚いていました。村の歴史の他に、見た事もない惑星の、文明書物もあるのですから…

「千寿…これは一体なんだ?」

メンバーの蓬莱氏が、布に覆われた、何かに気づきました。

「神輿だよ」

「神輿…?」

千寿氏は、布を外します。楕円形の金属のオブジェのような物体が出てきました。埃を軽く払うと、美しく光ります。

「祈りの神輿、故郷に還りたいと願い、呪術が緩む、夏至と冬至に、宇宙に向けて、発信した通信機だよ」

「通信機…」

「さ、早く運び出そう。この中には、貴重な鉱物もある…」

千寿氏と調査隊メンバーは、黙々と、書物や道具を、車の荷台に詰め込むと、村長の自宅の倉庫に運びます。

今後、窃盗などに会わぬよう、厳重に保管する為です。

昼時、相変わらず「神楽屋」は、行列が絶えません。その中には、先程の、行者達が居ました。

「西園寺師匠、私達に食べさせたい。と言っていた蕎麦と言うのは、ここなのですか…?どんな蕎麦なんですか?」

「私が先代の弟子時代に師匠達と食べた蕎麦だ。なんでもいいから一度食べてみろ」

根気よく並んで、ようやく席に着き、今か今かと、待っています。

「天ざる、ざる二段、ざる三段、山菜そば、やまかけそば、のお客様、お待たせしました。ご注文は以上でよろしいですか?あ…!」

配膳カートをひいてきた、サリーが、行者達一行を見て、一瞬、手を止めました。

「お、お久しぶりです…先生!」

「…はて、どこかでお会いしましたかね?」

「あ!い、いえ、私の人違いです。恩師に似ていたものですから…失礼します!」

サリーは、慌てて、厨房に戻りました。

「どした?サリー?」

慌てるサリーの視線の向こうを見ると…?

「ん?あれは、松方さんが、呼んだ拝み屋のようだな?」

「え?」

「親父からの知らせだと、さっき、自宅に訪ねてきて「封印の必要はない。安心してください」と、報告して帰っていったそうだ」

「そうだったんですか…」

「ところで、あの人達と知り合いなのか?」

「私が山に籠ってた頃の、お師匠なんです。さっき、思わず、挨拶してしまって…」

「ふーん」

「あの人達は、今の私の姿を知りません!それを思い出して「人違いです!」って謝ってきたんです!もービックリしました…」

顔を真っ赤にする、サリーを見て、納得しました。

「あぁ!そうか!勇人じゃないもんな!」

火水斗(ひみと)は、ケタケタと笑いました。

「店長!裏口に松方さんが来てます!」

「え?わかった、今いく」

火水斗は、調理の手を止め、他の従業員に交代すると、裏口に向かいました。

「松方さん、どうなさったんですか?こんなところから…?」

松方さんは、申し訳なさそうな表情で…そっと封筒を渡すと、そそくさと帰っていってしまいました。

火水斗は、サリーに耳打ちしました。

「勇人、会計の時、先生達のお代は、いただかなくていいからな」

「本名で呼ばないでください!お代を貰わないって、どうしてですか?」

「松方さんが、払ってくれたんだよ」

「…分かりました」

サリーは、すぐさま配膳業務に戻りました。

かつて、修行時代に、世話になった師匠や仲間たち、だけども、もう、サリーには、再会を懐かしむ事は、出来ません…。

会計のレジに立つ、彼等に、サリーは、代金の事情を話すと、承知したのか、お互い、深く頭を下げ、礼をました。

そして、西園寺師匠は「これを店主に渡してください。美味しかった、お礼です。勇人くん、ご馳走さま」と、小さな封筒を渡しました。

なんと、見抜いていたのです。美しく変貌した、かつての弟子の姿を…

「美味しかった。まるで美しい宇宙空間に包まれているような、素晴らしい蕎麦だった」と、喜ぶ師匠と元仲間達を、サリーは、見送りました。

 

蔵から、半分ほどの荷物
を運び出し終えた頃、すっかり、日が暮れています。千寿氏は、刺さるような空気が、穏やかになってる事に気づきました。

千寿氏は、不思議に思いながら、壊れた鍵を新しいものに付け替え、車に乗り込みます。

村長の自宅倉庫での、調査作業が待っています。

仲間達も、調査に、胸躍ります。

村長からの、メールを見た千寿氏は、皆に伝えます。

「みんな、夕飯は、村長の息子さんの店だそうだ。荷物を運んで、宿で、ひとっ風呂浴びてから行こうや」

仲間達は、笑顔です。


その頃、寅次郎博士は、イクサフィーゴの培養ケースから取り出した、キーパーツを磨いていました。

「あ、千寿さんからメールだ…なるほど、そりゃ良かった!」

ふと、顔がゆるむと、上着を着込み、出掛けていきました。

[つづく]

 (※このブログでは、ブログ小説【猫沢さん作品[幻想の魚の秘密]】架空のSF物語を展開中です。

物語と共に、登場猫達の紹介や、作者と猫達との交流を中心に発表しています。

そんな楽しい猫の星の世界観第5弾を、東京.高円寺[猫の額]さんでの個展にて発表いたしました(^O^)

2019年の7月、幻想の魚の秘密.第6弾を展示決定!お楽しみです。

猫沢さん作品の挿絵のポストカードは[猫の額]さんでも購入出来ますよ(^O^)

※この猫物語は、私の好きなミュージシャン平沢進氏の楽曲をBGMに流しながら浮かんだインスピレーションを元に綴り上げる実験的SF物語制作の一環です)

(※ このblog内の画像や文章を無断で転載等をする事は、ご遠慮下さい)    


個展連動SF猫物語[幻想の魚の秘密]シリーズ

東京 高円寺 猫雑貨&ぎゃらりー猫の額さんで、展開している。オリジナルSF猫物語を更新しています。

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