星を繋ぐ猫達 《第9章⑨ ナタトリアトラップ》
寒い日が続きますね。更新お待たせしました。朝起きるのが辛い季節です。皆様も、気をつけてお過ごしください。
画像は、2つk17年度、個展作品。お馴染みの猫沢さんとΣ-41(よっちゃん)とさいS‐8(はっちゃん)です。
では、続きをお楽しみください。
《第9章⑨ ナタトリアトラップ》
船の中の、ダイニングルームの窓際で、独り、海中を見つめる寅次郎博士、花音さんが出してくれた、クロ・チャンを飲んでいます。味は、珈琲によく似ているため、抵抗なく飲むことができ、香り高くて美味しいと、二杯目のおかわりを、注いでもらったばかり…
「寅次郎博士、私達は、開いてはいけない箱を開けてしまったのかもしれません…封印していた、あなたの悲しい過去を見てしまいました…」
「そんな事はないよ。これは、私自身が受け入れなくてはいけない事柄なんだ…あえて「私」が、私に見せた光景なんだよ…」
寅次郎博士は、申し訳なさげな表情の花音さんに、優しく微笑みかけました。
寅次郎博士は、時折見える、記憶の欠片を思い出していました。苦痛を伴うのを覚悟して、淡々と…、見せられる映像を…花音さんは、寅次郎博士の隣で、ゴロゴロと喉を鳴らし、祈るように、そばに居ます。
しばらく時間が経った頃、ようやく、彼の表情に、こわばりが消え、穏やかになりました。
「ありがとう…」
「疲れたでしょう?これを、食べてください」
花音さんが、手渡したのは、沢山のナッツとドライフルーツをカカオ固めた、バーでした。
「これは、テラの地で出来た物です。ナタトリアで消耗した細胞達を回復させて下さい。そして、テラのエネルギーを受け取って下さい」
「細胞の回復?」
「あなたのホログラムボディーは、一時的に時間を逆行させ、大きな負担がかかっています。船から降りた途端、急激に時間が正反対に動き出します。このバーを、1本づつゆっくり摂取し続けて下さい。」
花音さんは、他のテラビトサンプル達用に作り置きしておいた物を、ごっそりクーラーボックスに詰め、持ってきました。
「あ、ありがとう…しかし、多すぎないかな…?」
すると、ふくふくと穏やかだった花音さんの表情の中に、厳しさが現れました。
「…お伝えしにくい事だとは思うのですが…、あの方達は、再び、あなたを亡き者にしたかったようです…地上に戻った時に、急激な老化(反動)が、細胞達を襲い、あなたの体に後遺症が残るようプログラムされてました…。もし、あのまま、あの地に囚われ、王国復活計画の一員になっていたなら、この若さを保つ事が出来たでしょう…途中で逃げる事が出来たとしても、助からないように仕掛けたのですね…。到着したら、私も一緒に降ります。回復するまで、そばに居させて下さい」
花音さんは、真剣な表情で、寅次郎博士を見つめました。彼女は、宇宙船クルー達の食事を作る調理師。同時に、猫達の体調管理もしているのです。顔色を見ただけで、猫達の体に何が起きているのか、何が必要なのか?と言うビジョンが、視えるのです。
「分かった…ありがとう…。そう言う仕掛けか…相変わらず、手の込んだ事をしてくれる…」
寅次郎博士は、手にしたバーを、一気に口に放り込もうとすると…!?
「30回以上噛んでください!」
花音さんは、まるで母親のような表情です。
「え?」
「一つ一つの細胞に行き渡るように、細かく砕いて消化液と混ぜて下さい。虎之助博士の頃、皆に、さんざん言ってらしたでしょ」
寅次郎博士は、驚きと同時に、ジャッコ博士の事を、思い出しました。約20年前の彼が、地球人年齢50歳頃の時、カンタスカラーナから、やって来た、美しい女性科学者。彼女は、当初[橋渡しの民]として覚醒した、寅次郎博士と、任務を遂行する予定でした。ですが、記憶が戻っていない彼に、ジャッコ博士は、試行錯誤しながら記憶を取り戻させる努力をしてくれました。虎之助時代の、自分が書いた任務遂行日誌や、宇宙の理を、根気よく教えてくれたのです。
その当時、ろくに噛まずに食事をしていた寅次郎博士を、さんざん注意してくれた日々を、思い出したのです。
「あぁ、そうだった。咀嚼は、無敵の羽根を創る為の儀式だった…」
寅次郎博士は、頬張った分を、ゆっくりと噛みしめました。
「うまい…ありがとう…」
「今のあなたは、プラナダの民ではないのです。あの時代には、戻ってはいけません…今を生きてください!」
花音さんは、ふくよかな肉球で、寅次郎博士の手を握ります。
食べ終えた頃、猫達は、少しづつダイニングルームに集まって来ました。
海上の上空をゆっくりと飛ぶ、ニャンタープライズ号、行きの時よりも、ゆっくりしている事に気づいた寅次郎博士…
「!?」
なんと、宇宙船の窓に、オーロラが、見えたのです。
猫達は、ニコニコしながら窓の外を眺めています。
「美しい…始めて見た…」
「アクア操縦士が、帰りに、テラ観光しようと言ってくれましてね。これから絶景をご案内します」
猫沢さんは、満面の笑みで、寅次郎博士に言いました。
「オーロラに向かって、祈りましょう」
「え?」
寅次郎博士は、きょとんとしました。
「テラビトの歌で、オーロラが願いを叶えると言う歌を聴いたのですが…?それは、テラの古くからの言い伝えではないのですか?」
「言い伝え?知らないな…。そんな歌があるのかい?ロマンチックだなぁ、祈りか、なるほど…」
寅次郎博士は、微笑みました。
どうやら、猫沢さんは、偶然、どこかで、その歌を耳にし、古くから伝わる民族音楽のようなものと思っていたようです。彼には、創り手のDNAに刻まれた太古からの記憶が、音楽と言う媒体を使い、実体化された「原初の光」だと感じていたのです。
その美しい歌は、とても心に響いていたのです。
皆は、美しいオーロラを見つめ、任務の成功を祈りました。
「本当に美しい…この星に生まれて良かった…」
寅次郎博士は、本当に本当に心の底から、発しました。
「私は、この星に来たかったんだ…」
思わず、涙が溢れました。
「本当に…テラは、素晴らしい星ですね」
Σ‐41が、そう言うと真っ直ぐに、寅次郎博士の顔を見つめます。41の頭の上に、ちょこんと座る、小型ロボット猫ΣS-8も一緒です。
「虎之助博士は、この美しいテラが、とても過酷で危険な星だと知っていました。任務遂行が困難な星…。当時のあなたは、全てを理解していました。次の行き先こそ、テラだと決めたのです。大きなリスクを覚悟で、全てを私達に託しました。これからも、私達は全力で、あなたをサポートします」
Σ達は、凛々しい表情で、寅次郎博士を見つめます。まるで、父親を見るような眼差しで…彼は、かつて、初代のΣ達を作った生みの親…(Σ-41とΣS‐8は、子孫の猫居豹之助博士が、虎之助博士の設計図を元に復元し、改良を加えました。特に肉球の質感に力を注ぎました)
未来の星の世界から来た猫型ロボットは、元祖生みの親を助けに来た。
そんな風にも、見えました。
「ありがとう」
「寅次郎博士、見てください!綺麗ですよ!」
ミッシェルが、指差した先に、美しい光景が広がりました。ピンクの湖が…
「なんだこりゃ…!?」
「レトバ湖。高濃度の塩分と藻の色素で出来た湖です。カンタスカラーナにも、ここと、よく似た海があります」
猫沢さんは、故郷星を思い出すと、笑顔で話しました。
地球は、摩訶不思議、様々な表情をみせる。
沢山の生物や、物質達が、生きている星。
彼等の任務は、続きます。
その頃、作者は、様々な、食生活を見直しながら、以前よりも元気になった筈なのに、体を構成する為の何かが足りない…何が足りないのか、さっぱり解らない!…と…
原因不明の背中の痛みに耐えながら、日々を過ごしていました。
[つづく]
(※このブログでは、ブログ小説【猫沢さん作品[幻想の魚の秘密]】架空のSF物語を展開中です。
物語と共に、登場猫達の紹介や、作者と猫達との交流を中心に発表しています。
そんな楽しい猫の星の世界観第5弾を、東京.高円寺[猫の額]さんでの個展にて発表いたしました(^O^)
2019年の7月、幻想の魚の秘密.第6弾を展示決定!お楽しみです。
猫沢さん作品の挿絵のポストカードは[猫の額]さんでも購入出来ますよ(^O^)
※この猫物語は、私の好きなミュージシャン平沢進氏の楽曲をBGMに流しながら浮かんだインスピレーションを元に綴り上げる実験的SF物語制作の一環です)
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