星を繋ぐ猫達 《第3章 神楽地球調査記録帳》
GWも、もうすぐ終わりですね。個展準備に向けて突っ走り中です。
では、物語の続きをお楽しみ下さい。
画像は、寅次郎博士です(こちらの原画も、6月個展にて発表いたします。挿し絵用に、さらりと描いた作品なので、ファイルにはさんで置いておきます)
《第3章 神楽地球調査記録帳》
寅次郎博士は、書斎から、古びたノートの束を持ってきました。
「それは?」
「神楽師匠の[橋渡しの民]としての任務記録だ!師匠は記憶は戻っていなかったはずだが、記録を付けていたんだよ…今、追って読んでいるんだが驚く事ばかりだ…」
寅次郎博士は、興奮気味で話はじめます。
「何が書いてあるんですか?」
猫沢さん達は、思わず身を乗り出します。
「世界旅行記と地球調査記録の二本立てだ…」
「なんと」
「神楽師匠は、若い頃、蕎麦屋の仕事を転々としながら、合間に、趣味で世界中を旅していたんだが、しっかり調査していたようなんだ…驚いたよ。私は過去の神楽師匠の事は、ほとんど知らないんだが、師匠は、この日が来る事を見越して時を越えて、私にメッセージを残して行ったんだな…」
寅次郎博士は、日本語と宇宙の言語で書かれたノートの束を、しみじみと眺めていました。
「神楽師匠は、この場所を探し当てるまで、随分と旅を重ねたらしい…頭が下がる思いだよ」
「この場所を?」
「そうだ、ここは、カルカナル磁場の影響をほとんど受けない土地なんだよ。カンタスカラーナで言う、深き森のコロニーだよ」
「深き森のコロニーと同じ?どうりで…周波数が特殊だと思いました…」
猫沢さんは、周波数計を手にして呟きました。
「神楽師匠は、橋渡しの民の言語で、こう記している…[S369地点…とうとう見つけた。ここはカルカナル磁場の影響に左右されない、ここを拠点基地にしよう。仲間達に報告しなければ…]と、しかし私の所に届いたのは[宇宙と蕎麦]と言うメッセージだったんだ…師匠が、この土地から発したメッセージが私の元に届くまでの間、強力なカルカナル磁場の影響で、ノイズ混じりで、断片的でツジツマの合わない内容になり、私を困惑させたに過ぎなかったよ…」
寅次郎博士は、ため息をつきながら話します。
「しかし、寅次郎博士は、しっかりと受け取り、この地にたどり着いたではありませんか…」
猫沢さんは、すかさずフォローをいれます。
「そうだな…この地で、私が来るのを待っていた神楽師匠は、任務を思い出せないながらも、一生懸命支えてくれた。そして、ジャッコ博士の賢明なレクチャーで、私は、ここまできた…師匠も、おそらく、この調査記録を自動書記のように書いていたんだろう…本人は[自分で書いてて(言ってて)内容がサッパリわからん!]と言っていたからな」
苦笑する寅次郎博士。
昔、寅次郎博士は、神楽師匠の作る蕎麦に惹かれ、この村に移り住んだ時に、美しきカンタスカラーナの化学者猫、ジャッコ博士と出会いました。
かつて、寅次郎博士が、カンタスカラーナ時代に[猫伊虎之助]として生きていた時に、後世の猫達に、次の星で生きている[自分]を探して欲しいと伝え、カンタスカラーナでの役目を終えて、地球にやって来ていたのです。何代も受け継がれ猫達は、ようやく地球で生きる寅次郎博士を発見し、今に至るのです。その当時、ジャッコ博士は、一生懸命、寅次郎博士に[虎之助博士からの伝言]を伝え、去って行ったのです…。そして…その十数年後、猫沢さん達が、寅次郎博士と出会う事が出来たのです。
永い永い時を経て、来るべき時が、やって来たと、寅次郎博士のホログラムボディー(物質的肉体)にかけられた、様々なブロックは解かれ、蒼い曼陀羅のようなホログラムが表れ、かつての記憶や使命、任務を思い出したのです。
「私から見ても、この土地は、素晴らしいです。深き森のコロニーとソックリです!」
猫庭博士が、瞳を潤ませて言います。
「そうか…良かった。神楽師匠は、この村に移り住み蕎麦屋を営みながら、後任の私が来るのを待っていたんだ。その間の記録を…私はまともに読む事は出来なかった…「いまだ応答なし」の言葉は、何年も綴られていた。私は、その頃、大病院で内科医をしていた頃だ…仕事に追われ、疲れきった乱れた生活リズムの連続を過ごしていた…こんな状態で、神楽師匠からのメッセージをまともに受ける事は不可能だったと思う…」
寅次郎博士は、当時の事を思い出しつつ、遠くを見つめていました…。
「寅次郎博士、あなたは立派に任務を果たしていらっしゃいます。確かに、私達とコンタクトを取るまでの貴方は、かつての記憶を失っていて、ご自身が、おこなってきた事に対して、疑問を持ちながら過ごしていた事と思います。そして現在、答えは出揃い、全て整いました。 前任の神楽師匠が、テラビトとして、ご存命時代に、ミッションの共有が出来なかった事を悔やまれていますが、 これも、あなた方がプログラムしてこられたのかもしれませんよ…ですから、今を見つめて下さい…」
猫沢さんは、優しく寅次郎博士を慰めます。
「…そうだな…ありがとう。私は、師匠の記録ノートの最後の言葉に救われたんだ…「今、このノートを手にした君は[橋渡しの民]の記憶を思い出した頃だろう。お互い、遠回りではあったが、無事に引き継ぎを完了した…私のホログラムボディーは、間もなく役目を終える…地球での肉体は消失するが、私の意識の一部はここに置いておく、安心して任務をこなしてほしい。20年間ありがとう」亡くなる前日の日付だ…ようやく…これを読んで、任務引き継ぎの儀を終えた気分だよ…」
寅次郎博士は、ハンカチを取り出し目頭をソッと押さえ、うつむきました。釣られて猫達も、思わず涙がこぼれ落ちます。
その瞬間、窓の外にある一本の木の葉達がビュウッと揺れました。周りの木々は揺れていません。
「…あ!」
そう、きっとそう…神楽師匠からの合図です。
寅次郎博士の表情は、明るくなり、猫達に話しかけます。
「このノートには、カルカナル磁場の強い部分や弱い部分、風穴を開ける絶好ポイントが書かれている…これらを参考にして作戦を練ろう、カルカナル磁場崩壊作戦だ」
猫達は、笑顔で頷きました。
「寅次郎博士、カルカナル磁場を活性化させる原因も同時に追求せねばなりませんね…私達は、現在、数名のテラビトをサンプルとして、観察中ですが、カルカナル磁場の影響を強く受けた者達も多く発見しています…」
猫沢さんは、地球人サンプル達のデータを広げました。
「なるほど…確かに、カルカナル磁場の影響を受けている人間達は、本来の力を失い、ミトコンドリアの損傷も激しく、脳神経や、思考にも影響を及ぼしている…私が、街に住み、大病院勤務時代に感じた、妙に閉ざされたような圧迫感と、狂ってしまった空間にいた頃…痛感していたよ…」
寅次郎博士は、日本語に訳されたテラビトデータを眺めていました。
「テラビト達は、カルカナル磁場の存在を知りません…」
と、猫沢さんが言いかけた時…
「あ!」
「どうしました?」
「このサンプル2号ってのは…見覚えあるぞ?」
「ご存知なのですか?」
「私が、勤めていた病院の患者の旦那さんに似ている…すっかり老け込んでいるが…似てる」
寅次郎博士が老眼鏡で、必死に見つめ込んでいます。猫沢さんは、タブレットの画像を拡大してあげました。
「名前は?覚えていますか?」
「確か…門田とか、言っていたな…奥さんを病気で亡くして以来、田舎に引っ越し自給自足の生活をしていると聞いた…」
「ドンピシャです」
「えー!」
「サンプル2号、門田たかしさん、63歳、ストーンブロック(遮断石)の蓄積の少ないテラビトです…」
猫沢さんは、サンプル2号のデータを詳しく見せました。
「これは一体、なんと言う偶然…彼も私と同じく、橋渡しの民で、別のグループの任務者だ…しかるべき場所に、彼を配置させないと…会いに行かねば…猫沢くん、彼の居場所を教えてくれないかい?」
寅次郎博士は、あわてた様子で、神楽師匠の記録書のふせん部分を広げます。 そこには、他のメンバー達の事が書かれているのです。
「会いに行かれるのですか?彼は、現在、宇宙的存在達との接触を拒んでいますよ」
「私は地球人だ、問題はないだろう?」
確かにそうです。地球人の姿をした宇宙人、同類です。
「あ、もう、こんな時間…明日の仕込みをしなきゃ!とりあえず、今日の会議は終了だ。また次回にしよう。君達には、キーパーツとミニイクサフィーゴ達の捜索を頼むよ。私は明日、彼に会いに行く」
すっかり日は沈み、辺りは暗くなっています。
猫沢さん達に、引き続き捜索をお願いする寅次郎博士、そして、次々と、謎が明るみになり、急展開になっていく様子に猫達は、目を丸くしています。
猫達は、早々に引き上げ、宇宙船に乗り込みました。
猫沢さんは、移動中の宇宙船の中で、猫庭博士に語りかけました。
「猫庭博士…もう一度、君のおじいさん[猫庭十三郎]の話を聞かせてくれませんか…?」
[つづく]
(※このブログでは、ブログ小説【猫沢さん作品[幻想の魚の秘密]】架空のSF物語を展開中です。
猫の星カンタスカラーナを舞台にした物語、第二弾を、今年も東京.高円寺[猫の額]さんでの個展にて発表。2015年6月5日~17日に開催いたしました(^O^)
2016年の6月24日(金)~7月6日(水)、幻想の魚の秘密.第三弾[虚空高舞上‐そらたかくまいあがれ‐]を展示決定しました!
猫沢さん作品の挿絵のポストカードは[猫の額]さんでも購入出来ますよ(^O^)
※この猫物語は、私の好きなミュージシャン平沢進氏の楽曲をBGMに流しながら浮かんだインスピレーションを元に綴り上げる実験的SF物語制作の一環です)
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