星を繋ぐ猫達 《第9章⑦ リラのコア》

気づけば、もう師走、2018年も、残りわずかとなりました。急に寒くなりました。気を付けてお過ごしください。

先日、作品製作祈願に行ってきた神社に、お礼のお参りに行ってきました。
紅葉が綺麗でしたよ。

画像は、作品「百喜夜光☆ひゃっきやこう☆」の一部分です。
先頭を歩くのは、アクア操縦士、ドクター猫宮、ジャッコ博士、チャット博士、猫居博士、猫沢博士のお兄さん、その他大勢です。

では、続きをお楽しみください。

《第9章⑦ リラのコア》

広い客間に招かれた猫達と寅次郎博士、美しい幾何学模様の装飾が施された室内は、ゴールドが基調となっています。

猫達は、何故か懐かしく感じました。猫の星にも、似たような建築物や装飾が、各所にあるからです。

特に、エネルギー供給イクサフィーゴを囲むように作られたゴールドの装飾は、ナタトリアと似ています。

このシステムを開発した、虎之助博士のセンスや好みだと思っていた猫沢さん達、どうやら、グランティオス文明の名残のようです。

そして、元プラナダの民である、寅次郎博士は、ゆったりとした特別仕様の腰掛けに案内されました、護衛の猫達も、彼に付かず離れず、そっと同席しました。

「Mr.カザマ、これから、地上人間界の周波数を解きます。少しは楽になるでしょう。あなた方は、少し離れて見守っていてください」 

ミスマは、寅次郎博士にドーム型のシールドを張りました。年老いた寅次郎博士のホログラムボディーを、悲しげに見つめ、地球上の借り物のボディーとはいえ、あまりにも傷み激しく、なんとも言えない気持ちになりました…。地上では、たかが70年で、これほど劣化してしまうのかと…

光に包まれる事、数分後、すっかり若返った寅次郎がいました。年の頃は、30代前後の姿…髪の毛は白いまま…

猫達は、驚きます。

「一時的に、ホログラムボディーの細胞を活性化させ時間軸の概念を外しました。あなたは、ここにいる間だけ、この姿でいる事が出来ます。地上に戻れば、自然と元の姿に戻りますわ」

鏡に映った自分の姿を、まじまじと見つめる寅次郎博士、知らぬ間に可動域が狭くなっていた関節は軟らかくなり、肌の艶がよみがえっていました。

「地上に戻れば、元の姿か…なんだか浦島太郎みたいだな」

寅次郎博士は、思わず、ふふっと笑いました。

若返った寅次郎博士の姿を、猫達は、目を丸くして見つめていました。

「猫沢、前々から思っていたんだが…」

猫谷エンジニアが、猫沢さんに、コソッと話しかけます。

「なんでしょう?」

「お前の眉毛、寅次郎博士の眉毛にソックリだな」

と、クスクスと肩を震わせながら笑っています。

「似てません!」

「そうかい?二人共、いい眉毛してるよ」

変なツボに入ったのか、猫谷エンジニアは、肩を震わせていました。

「変なヤツ…」

猫沢さんは、眉をしかめながら、ソッポを向きました。

大きなテーブルに、美しい器に盛られた綺麗なフルーツのような食べ物に、目が行く猫達

それを見た、寅次郎博士

「これは、[あの頃の私]が、好きだった物だ…」

表情が、緩みかけた寅次郎博士に、

「そうでしたか、よろしかったら召し上がっていただいても良いのですよ」

ミスマは、微笑みました。
思わず、手を伸ばそうとした寅次郎博士の手に、猫パンチをする猫谷エンジニア

「寅次郎博士!ここの世界の食べ物を口にしてはいけません!皆も食べないで下さい!」

キョトンとする寅次郎博士に、猫谷エンジニアは、キツく言い放ちました。

「何故?」

「地上に戻れなくなります!」

その時、猫沢さんは、扇で隠れたミスマの口元が、一瞬、唇を噛み締めたかのように見え、目を疑いましたが、猫谷エンジニアの部下達の動きが、最初から慎重だった事にハッとしました。

すると、猫谷エンジニアは、ツジンシ達に伝えたのです。

「歓迎の席、お招き頂きまして、ありがとうございます。率直に伺います。あなた方が、私達をここに導いた理由を教えてください」

鋭い眼光を放つ猫谷エンジニア、一瞬、端正な顔をひきつらせるツジンシ…

「な、なかなか勘が鋭い方々ですね…。お答えします。グランティオスの復活です。私達は、長い間、海底に身を隠し過ごしてきました。地上に再び、王国を建て直す為、力を持った者達を集めているのです。あなた方にも協力していただきたいのです」

それを聞いた、猫谷エンジニアは、ハッキリと…

「お断りします。集めている?と言うことは、この世界に集められた者達が、多数居るのですね?しかし、今の地上は、あなた方のいた頃の周波数と全く異なります。耐えられないと思いますが?」

猫谷エンジニアは、冷静さを保ち淡々と、話しています。彼は、猫の星を護る特殊任務を請け負うシークレットな存在。いつも黙々と、宇宙船やフラクラフトの整備士として働いています。その姿からは、想像出来ない凛とした姿に、猫達は、再び驚くのです。

「大丈夫です。ほんの数百年後には、すっかり変わっていることでしょう」

ツジンシは、手のひらに地球の映像を浮かせて、転がしました。

「確かに、現在のテラの周波数は、変化し続けていますが、それは、あなた方の仕業ですか?」

「いいえ、私達ではありません。地球のコアです。地球は、私達が地上で暮らしていた頃の周波数に戻ろうとしているのです」

「地上人は、どうなるのですか?」

「真理に導かれし選ばれた僅かの人間を残し、ほとんどが、沙汰されるでしょう」

ツジンシは、目を細め、口角を、片方上げる仕草をしました。

「沙汰…?皆を救わないのですか?」

会話の間を縫うように、寅次郎博士は、思わず、口を開きました。

「救う?何を言っているのです?あのように退化してしまった人間達が、この先も生きていけると思うのですか?何も知らずに滅ぶのを待つだけの人間達を…?」

ミスマの、美しい顔に刻まれた醜い皺が現れたかと思うと、一瞬で消えてしまいました。それを見た猫達は、ゾッとしました。

「あなたがたは、あの頃と全く変わっていないのですね…」

寅次郎博士は、再びハッとしました。あの頃の記憶が、ほとんどない状態なのに、思わず口走ってしまった言葉を手で覆いました。

「プラナダの民は、綺麗事など言っているから、生き残れなかったのでしょう」

ミスマは、静かな冷笑と口調で、言い返します。

「そちらこそ、妙な選民意識を振りかざし、勝手に振るい分け[人柱]として私達を差し出し、逃げ出したのでしょう?我々王族をも、死の淵に追い込んだあなた方が、現在も、生きていると知った時、どんな気持ちになったか…」

寅次郎博士の瞳の奥は、怒りに満ちています。心の奥底に仕舞い込み、蓋をしていた想いが、表に現れたのです。

途切れ途切れながらも、あの頃の記憶を、取り戻す彼は、過去の亡霊と化しています。

「まずい…。猫沢、寅次郎博士の根っこの部分の意識が表面化し始めた。途切れていた時代の記憶まで、さかのぼってしまっては彼の[精神体]が、危険だ。止めなければ…」

猫谷エンジニアは、暴走しかけた寅次郎博士を止めます。

彼の額に、ある鉱物を押し当てると、一瞬で、元に戻り、落ち着きを取り戻しました。我に返った寅次郎博士は、キョトンとしています。

「ツジンシ様、ミスマ様、今一度、考え直してみませんか?地上人共々融合した世界を創りましょう。我々が受け取ったテラのコアからのメッセージは「宇宙全体が、ひとつになる事」です。リラの時代の過ちを繰り返さない事です!」

猫谷エンジニアは、キッと睨み付けるように言い放ちました。

「戯れ言を…!」

二人は、何かに取り憑かれたような、恐ろしい般若のような形相に…

哀れにも、彼らもまた、過去の亡霊に操られているのです…

猫谷エンジニアは、先程、寅次郎博士の額に当てた鉱物を、スッと二つに分け、二人の額に押し当てると、先程の穏やかな表情に戻り、猫達は、ホッとした表情になりました。

落ち着きを取り戻したミスマは、猫達に語りかけます。

「カンタスカラーナの民よ…あなた方もプラナダの民と同じなのですね…哀れです…これ以上引き留めておく理由はありません。お引き取りください…」

ツジンシとミスマは、悲しそうな表情です。

「あなた方、ナタトリアの民も、いずれ、テラのコア…いえ、リラのコアの真の心が、響く時が来るでしょう。再び力を合わせる時が来ます。その時まで、暫しのお別れです…」

遠く長い年月をかけ、ようやく廻り会えた喜びも、つかの間、解り合えなかった哀しみを握り締め、お互い背を向けました。

猫達は、席を外します。

その時、ミッシェルが、二人の元にかけ寄りました。

「本日は、お招き頂きありがとうございました。いつかまた、笑顔でお会いしたいです。私は…あなた方を信じています」

そう言うと、スッと猫達の列に戻り手を降りました。

寅次郎博士は、猫達に手を引かれながら、宇宙船に戻っていきます。

乗り込んだ猫達の船は、赤い門の上を通過すると、美しかったナタトリアの景色は消え、物悲しい海底の姿が広がりました。

寅次郎博士は、無言で、窓からの景色を眺めていました。宇宙船の中にいる間は、時空が異なる為、若さを保っています。

そんな姿を見ていた、調査メンバーの女性宮司であり学者のターラ女史が、

「ミスマ様は、寅次郎博士をナタトリアに引き留めたかったのね…」

「なぜ、分かるんですか?」

ミッシェルが、聞き返します。

「そのうち分かるわよ。博士は全く気づいてないみたいだけどね」

「ターラさん…私、あの人達が、悪い人ではないように思えます…」

「この世界に、善いも悪いもないわ…」

ターラ女史は、微笑みながら、自分の部屋に戻っていきました。

宇宙船は、寅次郎博士の自宅を目指します。

[つづく]

 (※このブログでは、ブログ小説【猫沢さん作品[幻想の魚の秘密]】架空のSF物語を展開中です。

物語と共に、登場猫達の紹介や、作者と猫達との交流を中心に発表しています。

そんな楽しい猫の星の世界観第5弾を、東京.高円寺[猫の額]さんでの個展にて発表いたしました(^O^)

2019年の7月、幻想の魚の秘密.第6弾を展示決定!お楽しみです。

猫沢さん作品の挿絵のポストカードは[猫の額]さんでも購入出来ますよ(^O^)

※この猫物語は、私の好きなミュージシャン平沢進氏の楽曲をBGMに流しながら浮かんだインスピレーションを元に綴り上げる実験的SF物語制作の一環です)

(※ このblog内の画像や文章を無断で転載等をする事は、ご遠慮下さい)   




個展連動SF猫物語[幻想の魚の秘密]シリーズ

東京 高円寺 猫雑貨&ぎゃらりー猫の額さんで、展開している。オリジナルSF猫物語を更新しています。

0コメント

  • 1000 / 1000